2016年4月26日火曜日

夜な夜なブランドを背負うということ


ヤッホーブルーイングの井出直行社長の著書『よなよなエールがお世話になります。』の出版記念トークイベントに参加してきた。当書籍の編集に関わったフリージャーナリストの夏目幸明さんが井出さんにインタビューするような形式で、聴衆はPeatixというイベントアプリを通じて集まった200名程度の一般の方々。ボクのような業界の人間もある程度含まれていたんだろうとは思う。

まさしく"夜な夜な"飲食店を飲み歩いている自分の営業活動が一番忙しい時間帯にこのイベントに足を運んだ理由は、それなりにある。この会社に興味を持った理由がある。

2002年に自分がキリンビールの社内ベンチャーでビアスタイル21社を立ち上げ、ガージェリーの展開を始めた頃、ヤッホーブルーイングの当時の醸造責任者とお店やイベントなどで時々顔を合わせることがあった。その頃同社はハンドポンプでサーヴする「よなよなリアルエール」の展開を始めており、一般的な生ビールディスペンサーとは全く違う仕組みだけに、メーカーとしてもかなり現場に関与し指導することと経験の蓄積が必要な時期だったのだろう。だから〝顔見知り〟として少し親近感があった。また、いわゆる地ビールメーカーの中で、商品名に地名を使わず、〝夜な夜な飲む〟という、むしろ消費者側に立ったネーミングから、他の地ビールメーカーと少し違うなという印象を持っていたのだろう。

そしてもう少し後の話。キリンビールは2007年にビアスタイル21社を手放した。当時のこの判断について詳しくは書けないが、ガージェリーという小規模商品に戦略的な意味を見いださなかったということは言っても差し支えないだろう。また、よなよなエールは当時前年比数10%のペースで伸び始めていたとは言えボリューム的には極めて小さく、クラフトビールという言葉がまだ一般的には使われていなかった頃で、それがまさか昨今のような状態になるとは想像していなかったわけだ。しかしそれから8年後、そのキリンがクラフトビールのスプリングバレーブルワリーを立ち上げ、さらにはあのヤッホーブルーイングに出資することになるとは、なんと言うか、感慨深い、とでも言っておくか(笑)。

さて、話はトークイベントに戻る。井出社長のことは社長になる前からインターネット上の情報で多少存じ上げていたし、キリンの出資を発表した際のニュースでも、ヤッホーとキリン、並んで写っている二人の社長の対比(真面目なキリン社長とカジュアルな井出社長)が何とも印象的だったこともあって興味は持っていた。

2000年を過ぎた辺りの赤字が続いて廃業を考えざるを得ない状況から反転し、生まれ変わったと言って過言でないくらいに会社を活性化した井出社長の不断の努力と、それを可能にした人柄は大したものだと思う。今回上梓した著書もとても面白くためになった。ビール会社って、こんな風でありたいよね、って素直に思う。キリンビールの社員もそう感じている人は多いのではないか。


ヤッホー社の親会社である星野リゾートの星野社長は1984年に米国コーネル大学のホテル経営大学院に入学、一方、キリンの磯崎社長は1988年に同大学のホテル経営学科へ留学されているが、この辺りの関係もあるだろう、コンビニエンスストアを中心に急拡大する売上に対応する一方、設備投資のリスクを抑えるために、キリンに製造委託をしたヤッホー社。そしてキリンはヤッホー社全体の33.4%に当たる普通株式を所有することになった。

ちょっと興味深いのは、イベントの質問コーナーでキリンの出資について聞かれた時の井出社長の回答。「ヤッホー側は何も変わらない」「キリンの人たちが全国から入れ替わり立ち替わり見学に来るので毎度毎度懇親会が開かれている」ということだけで軽く流した。しかし、それだけで済む話ではなくなっているはず。それというのもこの4月からキリンビールが「よなよなエール」の飲食店向け大樽を販売開始した。キリンの業務用の営業が「よなよなエール」を売る。つまり「よなよなブランド」と消費者を繋ぐ人たちが一気に増えるわけだ。しかもその人たちは本来「キリン」という看板を背負っている。これを「よなよな」として「ヤッホー」としてどう考えているのか、どういう方針で臨むのかは、ブランド上、極めて重大な話だ。

興味深くはあるが、そこからは立ち入る話ではない。そのイベントが終わると、少し遅い時間になってしまったが、ボクは「ガージェリー」の看板を背負って街に出た。



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