2017年5月4日木曜日

ハートの中に30年残れるか

うはは、うまそうな鮎のコンフィ!ピンク色だよ〜。


何気なく入ったお店が、思っていた以上に良いお店だと得した気分で、とても嬉しい。そして、普段から感じていることだけど、そういうお店にかなりの高い確率で置いてあるのが、キリンのハートランドだ。30年前にキリンビールが「キリンの名のつかない」ブランドとして発売したこのビールは、初期の評判の良さに乗って早い時期に樽と瓶に加えて缶商品を発売し数年で終売するというマーケティングの失敗をしたものの、その後、ほとんど広告らしい広告をしない中で少しずつ広がり、いつの間にか30年だ。大々的な広告をしても1〜2年で頓挫してしまいリニューアル再発売を繰り返し結局は終売となる多くの銘柄を横目に、発売当時のデザイン・香味のままで個性的なポジションを得た稀有なブランドだ。キリンビールに26年勤めた自分としても、キリンが販売する多くの銘柄の中で特別に好きなブランド。だからこうしてハートランドとガージェリーが並んでいると嬉しいし、嬉しい以上のものがある。



ハートランドは昨年で30周年、ガージェリーは今年、その半分の15年。ガージェリーも元は2002年にキリンビールの社内プロジェクトで生まれたブランドだ。2007年にキリンビールを離れることになったわけだが、「キリンの名のつかない」ブランドをつくる、というハートランドと共通点を持つミッションの中で生まれたビールなのだ。「キリン」という消費者にとって信頼できるブランドを冠さないということは、消費者と商品の関係の新しいあり方を探すことでもある。それにはブランドコンセプトが極めて大事。

自分はもうキリンの人間ではないので、ハートランドのコンセプトについて語る立場にないが、ハートランドのコンセプトは「素(そ・もと)」。飾らず、流行や権威、既存の価値観にとらわれない、ということだ。一方、ガージェリーがブランドコンセプトとした言葉は「元型 (archetype)」という、心理学における概念なのだが、人々の心の中のあり無意識に作用する共通の〝何か〟であり、ハートランドのコンセプトに比べると少々小難しいが、人の心の中にいつも一緒にいるような存在でありたい、という気持ちを込めていると受け止めて欲しい。


さて、鮎のコンフィとは全く関係ない話に飛んでしまったが、そこに戻るのは諦めて(笑)、ブランドについての話を進めたい。

ガージェリーがハートランドと並んでいると自分が嬉しく安心するのは、ブランドイメージに関わる要素が大きい。ブランドと消費者の関係をつくっていく上で、商品をどこに置くかは一番大きな問題だ。どういう飲み手が、どういう状況の時、こういう場所で、こういう飲まれ方をしたい。ビールの造り、品質管理はもちろん重要だが、それだけではなく、背景となるストーリー、世界観、ものの見方、切り口、そういうことを飲み手に、たとえ漠然とであっても伝えたい。マナー、トーンと言ったらテクニック臭くなるが、人の感情に寄り添うような優しいイメージのブランドとして心に残って欲しい。そうしたいと願った時に、消費者との接点に誰がいて欲しいか、何と共にあって欲しいかは、自然と決まってくる。それがビアスタイル21の営業活動をどうするかにも繋がってくる。


話は少し変わるが、人はグループ分けをする。そうすることで物事を理解しやすくする。ビールに関して言えば、大手ブランド以外は、ひと昔前は「地ビール」、今は「クラフトビール」。多くの人はどうしても二者択一で決める傾向にあり、その結果、ガージェリーも「地ビール」か「クラフトビール」というグループに入ることになる。ただ、その二分割の切り口で理解されると、先に書いたマナーもトーンも伝えにくくなってしまう。大抵はそういう理解をしたところで止まってしまうし、その切り口はガージェリーをガージェリーたらしめている要素とは関係が薄いからだ。まあ世の中は自分だけに都合よく動いているわけではないのだし、クラフトビールブームがガージェリーの追い風になっていることも事実ではある。

さて、ハートランドのことを「キリン」の商品だと知らない人がどれだけいるかわからないが、「キリンらしくない」もしくは「日本の大手メーカーらしくない」ブランドであることに異を唱える人はあまりいないだろうと思う。またクラフトビールというカテゴリーを意識しているようにも見えない。ここでは突っ込んで書かないが、正直、クラフトカテゴリーを意識するあまり、いくつかの大手ブランドが迷走しているように思っている。それに対してハートランドの清々しさ、足場の揺るぎなさ、それがコンセプトの強さということなのだが、その出自もブランドのあり方もガージェリーと共通点があるということで、並んでいると落ち着いた気持ちで見れるという、そういうことなのだ。


そんなわけで、遅ればせながら、ハートランド30周年、おめでとうございます。

ガージェリーも15年、次の15年も飲み手の心の中に残っていくブランドになるよう、精一杯やっていきます!

(冒頭の鮎のコンフィの写真、2枚目の写真は武蔵小山のLe Boisにて撮影)