2017年3月6日月曜日

黒とともに生きている

何度か書いているが、2002年にビアスタイル21社を立ち上げたとき、商品はガージェリー・スタウトだけだった。10Lの樽詰ビール。しかもかなり濃い黒ビール。このビールだけで勝負しようとしたのだ。無謀なことにも思えたが、そんな選択をした自分たちが好きだった(笑)。

今でこそクラフトビールブームでIPAとかペールエールなどという言葉を知っている人が増えてきているけれど、当時はまだ発泡酒が大いに世を賑わしていて、とにかく価格だとかキレだとか、いかにビールに近いかっていうのが争点だった。大手以外のビールと言えば、当時は下火になっていた「地ビール」で一括りっていう感じだったが、それも大抵見た目は褐色程度の色を前面に出しているものが多かった。そこを、こんな真っ黒な液体だけでいったわけだ。

なぜか?インパクトが欲しかった?それもある。


一つ目の答えは「おいしかった」。単純だが、出来上がったものがとてつもなくおいしかったから、これに、あれやこれや選択肢をつくることが得策とは思えなかったのだ。

二つ目の答えは、この黒ビールが間違いなく「新しい価値」を持つと思ったから。つまり、これまでのビールや黒ビールの文脈ではなく、全く別の文脈でお客様に提案できる。その強いイメージを持つことができたのだ。

欧米人が賑やかなパブでパイントグラスを持って談笑しているのではなく、サラリーマンが居酒屋でジョッキでグイグイ飲んでいるのでもなく、

30代くらいの女性が、バーカウンターやカフェテラスで、このビールを一人、エレガントに、ゆったり飲んでいる光景がくっきり浮かんできた。


わかりやすく例えると、今は多少シーンが変わっているとは思うが、当時のスターバックスコーヒーを思い浮かべて欲しい。マグカップで飲むアメリカンコーヒーとは全く異なる飲み物として出現した、あのカフェラテ。しかも、それは飲み物としてだけではなく、洒落た空間で贅沢な気分で、という、空間と時間をも取り込んだものだった。

それが、ビールでもできる、と思ったわけだ。

理屈ではなく、この〝黒〟はオーラを持っていた。



それを実現するために、全身全霊をもって、取り組んだ。

リュトングラスに注いだスタウトビールを、素敵な空間で飲めるようにしたい。

それが、2002年のガージェリーの始まり。

だから、ガージェリーの中でも樽のガージェリー・スタウトは別格の存在。