2017年1月24日火曜日

古巣のこと、クラフトのこと

数日前のことだけど、27年前の古巣の仲間と飲んだ。

古巣というのはキリンビールのこと。26年の間に一緒に働いた仲間が沢山いるし、今も同じ業界にいることもあり、常にその動向は気になっているのだけれど、昨年の業績はかなり厳しいものだったようだ。一方で同社は大手ながらクラフトビールカテゴリーでの展開にも意欲的で、代官山のブルワリーレストランを拠点にしてクラフトビールの通販をするスプリングバレーブルワリー事業を立ち上げた。そしてクラフトビールの最大手ヤッホーブルーイング社に資本を入れた上で事業提携し、一部のビールの製造を請け負い、キリンビールによる「よなよなエール」の樽の販売も始めている。さらにはアメリカの有力クラフトビール会社ブルックリンブルワリーにも資本を入れ日本での販売を準備している。

前置きが長くなったが、そのキリンビールに入社したばかりの頃の同僚と飲んだというだけの話(笑)。ただそのお店のビールの品揃えから、あらためて思うところがあったので書き留めている。


そのお店はベルギービールを中心としつつ、さらに日本のクラフトビールをずらりと品揃えたビアレストラン。ガージェリーの取扱店としては少し珍しい業態なのだが、ありがたいことに気に入っていただき声をお掛けいただいた。そしてほぼ同時に取り扱いを始められたのが「よなよなエール」。キリンが造り、キリンが販売している「よなよなエール」と、そのキリンビールが10年前に手放したガージェリーが卓上で並び、そんなことは思いもよらなかった時代の古い仲間が昔話に花を咲かせたわけ。
当時、つまり1990年前後、アサヒスーパードライをどうする!?とやっきになっていたあの頃とはだいぶ世の情勢も変わった。キリンはドライビールや一番搾りを含め数々の新商品で対抗してきたが、結局スーパードライの成長を止めることはできず、大きく販売シェアを落としトップメーカーの座を明け渡すことになった。

そんな中で、僕らは2002年にキリンビールの社内ベンチャーとしてガージェリーを立ち上げ夢を膨らませたが、2007年には、簡単に言えば「戦力外通告」を受けてガージェリーはキリンから離れることになった。正直、あの時キリンの中にガージェリーを残していれば、随分違ったストーリーがあったのではないかと残念な気持ちはある。僕もキリンを辞めることはなかったかもしれない。


そして、冒頭に書いたような、この数年のキリンのクラフトビールへの力の入れ具合を見ると、それなりに思うところはあるわけだ。まあ、それは過ぎた話なので、それ自体にどうこうは言うまい。今は今でなかなか楽しい状況になっているわけだし。それよりも気になるのは同社のこれからだ。正直心配。

さて、また改めて書きたいと思うが、日本でのクラフトビール市場はそろそろ新しいステージを迎えようとしていると思う。それは全体で言えば決して楽観できるものではない。アメリカのクラフトビールがビール市場全体の10%以上を超え、さらに伸びているということから、まだそれが1%程度である日本においては大きく伸びる余地があるという見方がある。そもそもクラフトという切り口は曖昧なところがあり、「クラフトだから美味い」というのも誤解。造り手の資本が大きかろうが小さかろうが、手でホップを入れようが、装置でホップを入れようが、美味いか不味いかは別問題。さて、乱立しつつあるクラフトビールメーカー、ブームを過信したのではという不安の残る大きな設備投資。その中で、今後何が重要なポイントになってくるだろう。


それは単純なことで、飲み手との架け橋になる「ブランド」だ。美味しいビールを造り、飲み手に美味しい状態で届けるのは最低線。その上で、美味しいビールやお酒の選択肢が覚えきれないほど数多ある中、飲み手に継続して買いたいと思ってもらい、これが難しいのだが、ちゃんと行動に移してもらう。そのストーリーを描くことができるブランドが生き残っていく。

この点に関しては、僕の考えでは、最近の大手メーカーもかなり間違ったことをしていると思っている。多くのナショナルブランドが迷走しているように思う。クラフトビールメーカーに関しては、これを真剣に考えている会社はごく僅かしかないと感じる。

ビジネスという観点では、大手もクラフトも、今年が分岐点になるだろうと思う。

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